トイレを使用した後に、しばらくしてから「ゴー」という、再び水が流れ込むような音が聞こえてくることはありませんか。これはトイレの故障を知らせる典型的なサインの一つであり、その原因は多くの場合、トイレタンクの中に隠されています。特に、タンクの底で栓の役割を果たしているゴム製の部品が、その犯人である可能性が高いと考えられます。この部品は、私たちの目には触れない場所で、日々黙々と重要な仕事をこなしている消耗品なのです。 この部品は「フロートバルブ」や「フロートゴム玉」などと呼ばれ、トイレのレバーを操作すると鎖で引き上げられ、タンクの水を便器に流し込みます。そして、水が流れ終わると自重で元の位置に戻り、排水口に蓋をして再び水が溜まるのを待つという仕組みです。問題は、このゴム製の部品が、常に水に浸かっているという過酷な環境に置かれていることです。水道水に含まれる塩素などの影響で、ゴムは年月と共に弾力性を失い、硬化したり、ひび割れたり、あるいは変形してしまったりします。 そうなると、フロートバルブは排水口を完全に密閉することができなくなり、わずかな隙間が生まれます。その隙間から、タンクの水が糸を引くように、あるいは一滴ずつ、便器の中へと漏れ出し続けます。タンクの水位は少しずつ下がっていき、給水装置が「水が減った」と感知すると、失われた水を補うために自動で給水が始まります。この、本来は不要なはずの突然の給水こそが、「ゴー」という異音の正体です。つまり、音が鳴るたびに、あなたの家の水道代が無駄に消費されている瞬間なのです。 この状態を放置すると、ゴムの劣化はさらに進行し、水漏れの量も増えていきます。最初は数時間に一度だった異音が、数十分おきになり、やがては常に水が流れ続ける状態に陥ることもあります。フロートバルブは、ホームセンターなどで数百円から千円程度で購入できる部品です。交換作業も比較的簡単ですが、チェーンの長さを適切に調整する必要があるなど、いくつかのポイントがあります。もし作業に不安があれば、無理せずプロの水道業者に依頼するのが賢明です。トイレの「ゴー」という音は、小さな部品の寿命を知らせるサイン。早めの交換で、無駄な出費と将来の大きなトラブルを防ぎましょう。